ヒカリの学習ノート

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「お金」が好きなら先ずは知ることからはじめよう!経済からお金の雑学、テクノロジーの動向まで、このブログを読めば一気に学ぶことができるよ。

音声SNSはビジネスで使えるのか? Clubhouse(クラブハウス)のこれから

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ヒカリの学習ノートを読んでくれてありがとう。

今日は、今注目を集めている音声SNSアプリClubhouse(クラブハウス)について、ビジネスでの有用性を主眼に置いて見て行きたいと思う。アプリの使い方や特徴については既に他の人が記事にしているみたいだから、気になった人は各自で調べてみて欲しい。

 

 

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先行者利益を狙う著名人の動き

 

田村淳やホリエモンなどの著名人はもちろん、ビジネス・ノマド系ユーチューバーとして活躍しているイケダハヤトのようなインフルエンサーは既に参入している。

言うまでもないことだが、彼らは皆、このClubhouseにビジネスチャンスを見出しており、早い段階から先行者利益を狙っているんだ。

 

昨年まではフリーランス界隈でも5Gの到来を理由に「これからの時代は動画だ!」と言われていて、動画編集スキルが稼ぐ手段の一つとして注目されていた。にもかかわらず、今年に入って急激に音声メディアが人気になった背景には何があるのだろうか。これについては諸説あるが、一つ言えることは在宅ワークの影響が大きいだろう。自宅での作業中、目と手は塞がっているけど、耳は空いている。動画ならスマホ片手にじっと画面を見ていなければいけないけど、音声だけなら聞き流しで作業ができる。昔の学生がラジオを聴きながら勉強していたような感じだろうか。手軽さが求められる現代の需要にマッチしたサービスがこの音声配信アプリだったというわけだ。

 

現時点(2021年2月)では課金システムは用意されていないから、Clubhouseで直接稼ぐことは出来ないんだけど、将来的には有料サービスが搭載される予定だ。今のうちからリスナーを集めておけば収益確保もスムーズだろう。課金システムが導入されるまでの間は自分のサロンや商材なんかのサービスに誘導する手段としても使える。ビジネス系のインフルエンサーの場合はそれが狙いで使っている人が多いだろう。

 

行動心理学のお手本のようなトレンド

 

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Clubhouseは2020年3月に米国のベンチャー企業がローンチしたサービスだ。それから僅か1年足らずの2021年2月上旬時点での日本国内のユーザー数はなんと50万人を突破している。驚くべきことは、日本でサービスを開始してから僅か1週間で20代の34%が認知するに至っていることだ。

そんな爆発的な人気を集めているClubhouseだけど、流行りに乗じるには乗り越えるべきハードルがいくつかある。

先ずは年齢制限、使用できるのは18歳以上だ。そして端末、現時点ではまだAndroid版はリリースされていない。今すぐに使いたいのであればiPhoneを買うしかないだろう。極めつけは完全招待制であることだ。一時期メルカリでは高値で売買されていたね。招待制と言えばかつてのmixiを思い出すけど、当時の若者はそこまで必死にmixiの招待を受けようとしていただろうか。

Clubhouseが使えない疎外感を味わっているのは何も20代だけではないようだ。アプリの認知度が1割弱程度の40代であっても焦りを感じていると言われている。世代にばらつきはあるが、少なくとも人生の半分以上をネット時代に生きて来た者であれば乗り遅れたくないという焦りを覚えるのは自然なことだろう。

 

ここまで話して来た新サービスの爆発的人気と人々に与える疎外感と焦りは、マーケティングで使われる行動心理学と照らし合わせてみることができる。ひとつひとつ確認していこう。

 

先ずはバンドワゴン効果。みんなが「Clubhouseを使っているのだから自分も使わなければいけない」という心境だ。すべて他人の行動が影響している。高値で取引されているインビテーションは、希少性に価値を見出すスノッブ効果だ。つまり「他人と差別化を図りたい」「他人の持っていないものが欲しい」という欲求を刺激する。そして、ビジネス系インフルエンサーが「動画から音声メディアの時代になる」と主張する権威性の法則。これについては筆者を含めネットビジネスに関心を寄せる者なら信じざるを得ない、有無を言わせぬ説得力を示している。

この他にはFOMO(fear of missing out)、これは「疎外感や流行を見過ごすことへの恐怖心」を駆り立てる。最後はカリギュラ効果、これについては年齢制限やiPhoneユーザーしか使えないという制限が当てはまるだろう。「自分は使えないんだ」と思うと益々「使いたい!」「欲しい!」と感じる心境は、みんなにも覚えがある筈だよ。

 

どうだろうか。ざっと思い付く限りを並べてみただけでも結構当てはまるよね。正直、運営元のAlpha Exploration Coが狙ってやったというよりは結果的にこうなった感が強いんだけど、これらの心理作用が効果を発揮しているのは事実だ。

 

政界にもインタラクティブメディア(対話・双方向型の媒体)を活用する時代が来るのか?

 

発信者である政治家と受け手である国民が相互に、リアルタイムで質疑応答するようになると言われているんだけど、これについてはどうなんだろうね。芸能人の会話に一般人が割って入ったり、各界の著名人や学者と討論することは実現するかもしれない。だけどClubhouseが政治の世界で使われるのかと言われると大いに疑問だ。

ニュースサイトの記事では「総理大臣や大統領の対談に国民が参加して直接質問できるようになる」みたいなことが言われているんだけど、事前に通達されていない、記者でも何でもない素人からの質問内容に準備無しに総理や大統領が即座に応えられるのだろうか?どこかの元総理で、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長のように口を滑らせて一瞬で政治生命が脅かされる可能性だってあるだろう。もちろん、放送内容から質問を予測して官僚が回答を準備しておくことも可能だろうが、録音されないとはいえ全世界にリアルタイムで配信される放送でやるべきことなのだろうか?あまりにもリスキーだろう。

双方向性にこだわらないのであれば、水戸市の高橋靖市長のように、あらかじめ決められた内容を発信する手段として使うことは可能だ。現時点ではiPhoneユーザーでClubhouseに招待された市民限定になってしまうが、後々アプリが普及したときにインターネットラジオ感覚で利用出来るようになる。災害時に情報を得る手段として効果を発揮しそうだ。

ビジネスの観点から考えられるのは、マスコミがClubhouseを活用することだけど、これは政治、芸能記者を問わず難しいだろう。何故ならメモも録音も原則禁止されているからだ。あとから記事として発表することも規約上許されない。事前に許可を取り、書面を交わしてインタビューする方法もあるが、それなら従来の記者会見がネット会見に変わったというだけの話だ。今のご時世は便利かもしれないけど、その程度でしか使い道がないということだ。

 

会社の会議で活用する

 

Clubhouseは複数人の会話にも優れている。高音質でラグもない。まるで同じ部屋に集まっているかのような臨場感が味わえる。音声だけで完結する会議であればZOOMを使う必要もないし、何よりも手軽だ。小規模な会議であれば十分使用価値がある。

だけどここで注意したいのは、運営者側も聴くことができることだ。あくまでも監視の目的ではあるんだけど、企業の機密事項をClubhouseで話し合うことはおすすめできない。特に競合のIT系企業は気を付けた方が良いだろう。重役の秘密会議がひっそり行えるような話も聞いたけど、以上の理由から不可能だ。

 

その他の用途としては、朝礼での活用だろうか。楽天は元々ネット配信で朝礼を行っていた記憶があるので、質疑応答が出来るClubhouseは大企業で経営者と社員との距離を縮めるには良いツールだろう。もちろん、機密事項は漏らせないが...。

他にも、会長職に退いたAmazonのジェフ・ベゾスが顧客と直接コミュニケーションを取る手段として使うことも考えられる。顧客第一主義の経営者にとっては利用しない手はないだろう。

 

早速Clubhouse(クラブハウス)をはじめたい!

 

先に説明した通りClubhouseは現時点(2020年2月)では完全招待制だ。

 

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インビテーションを購入する以外の方法で参加したいのであれば、アプリをインストールして、電話番号と基本情報を登録しよう。これで「Waitリスト」に入ることができる。あとは友人or知人から「承認」されるのを待つだけだ。あなたの電話番号を登録している人がClubhouseをはじめた際に招待してくれるかもしれない。

LINEを始めたときに、何年間も連絡を取っていないような知り合いが「友だち」に追加されていた経験はないだろうか。意外と自分の番号を登録している知り合いはいるものだ。その中の誰が自分を招待してくれるかは分からないけど、何もしないでいるよりも、先ずはアプリを入れて誰かに拾い上げてもらうのを待ってみた方が良いだろう。

 

私のノートでは経済学に留まらず「お金」に関わる話を幅広く取り上げて行くつもりなので、今回もビジネスや副業に繋がる話題としてClubhouseについて私見を述べてみた。今後もお金とビジネスに関連する情報をシェアしていければと思っているので、引き続きチェックしてもらえるとうれしい。

 

それでは、また次回の記事で会おう。

一般歳出と国債費について

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ヒカリの学習ノートにようこそ。

 

ここまで3回に渡って財政赤字とクラウディングアウトといったMMTを取り巻く諸問題や疑問を抱かれている点について説明してきたんだけど、今回は財務省の資料を見ながら不明点をまとめることにしたよ。

 

以前の記事をまだ読んでいないという人は、ここで説明する内容に目を通した後でも構わないから、一度確認してみて欲しい。

 

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*出典 財務省HP「これからの日本のために財政を考える」(https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/index.html)より

 

では、早速本題に入ろうか。

毎年、国の予算はだいたい100兆円程度が一般会計から歳出されていて、そこから社会保障費や地方交付税交付金等の国民生活に必要な予算が割り当てられている。2020年度の歳出は102.7兆円だったことが見て取れるだろう。このうち、22.7%を占めるのが、政府の借金と噂されている国債費の23.4兆円だ。この中に利払いや期限の到来した国債の償還費用が含まれているよ。

 

この資料を見た時に“一般会計歳出の約1/4が国債費で、そこに含まれる償還費用や利払いが税金によって賄われているのか”と考える人がいるかも知れない。やはり過去のツケが自分達に、そして将来へと引き継がれてしまうのか…と。これはよくある誤解だから仕方がないだろう。

 

では、次の資料を見て欲しい。

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二つのグラフを見比べてみて、何か気付くことはあるだろうか。

 

税収がおよそ70兆円だから102.7兆円の予算を一般会計から歳出には32兆円は不足していることが分かるよね。

これについては見ての通り、公債費として32.6兆円が新たに予算に組み込まれているよ。そこから国債の利払いや償還費用(借り換え)が賄われているんだ。

 

だからどうしたのかって? ここまで話せばもう分かるよね。要するに、新たに国債を発行することで、将来のツケとされている国債の利払いや償還費用を賄っているということなんだよ。これに関しては過去の記事でも60年償還ルールの話で触れていたと思うけど、俗に「借金」と呼ばれている国債は、償還期限が到来したものから順次借り換えを行うことで「返済」されているんだ。つまり、新たな国債を発行することでちゃんと“借金を返している”んだよ。だから「返さなくても良い借金」という表現が誤解を招いてしまっている。

付け加えると、国債を税金で返済してしまうと、その分だけマネ―ストックが消滅してしまうので、経済を回して行く上で不都合が生じてしまうんだ。だから、税金で返したくても実現することが難しいという理由がある。

 

「私たちの税金から強制的に支払わされているわけではないことは分かった。だったら私たちから税金なんか取らないで、新たな国債をジャブジャブ発行して予算を賄ってしまえばいいじゃないか!税金なんてはなからいらないだろう!!」

という疑問は必ず湧いて来るだろうね。あちこちで、いろんな人が何度説明しても毎回、必ず同じ疑問をぶつけられているのを目にするよ。筆者も過去に説明していると思うし、この先も繰り返し言い続けることになると思うんだけど、念のためここでも説明しておくよ。

 

財源が税金から賄われているわけではないのは事実なんだけど、税金には他に大切な役割があるからどうしても無くすことができないんだ。

 

一つは、富の偏在を抑制すること。これは累進課税によって行われている。所得の差異を問わず一律の税額だったら高所得者以外は生活できなくなってしまうからね。

二つ目は、インフレ率の調整だ。好景気には政策金利を上げる方法もあるけど、それと同時に税金として吸い上げることで、加熱した景気を抑える役割がある。このことからも、デフレ期での消費増税が逆効果であることが分かるだろう。消費を後押ししたいのに消費に対するペナルティを課すというのはおかしな話だ。

三つ目は、恐らくこれが最も重要な税金の役割だろう。私たちが日本円を使う根拠とすること。国内通貨としての価値を裏付ける効果だ。どういうことかというと、私たちがどこのお店に行っても支払いで必ず円を使っているのは、「円」でしか税金が納められないからだよ。国内でみんなバラバラの通貨を使われたら困るよね。政府としては自国通貨を普及させたい。そのために、日本で生活する全ての人に円による納税を義務付けているんだ。私たちが円を使用しているのは、円の信用を買っているからではなく、円でしか取り引きできないから仕方なく使っているだけだよ。

 

某有名政治塾が理想に掲げていたような無税国家を実現したいのであれば、MMTの問題以前に先に挙げた3つの役割を全て放棄してから実現して下さいと言う他ないよ。

 

バブル崩壊以降、伸び悩む税収の不足分を国債発行で埋めて来たと言われているけど、デフレで消費が落ち込んでいれば税収だって落ち込むだろう。どうしても税収を上げたいのであれば富裕税でも導入して取れるところから取ってみても良いだろうけど、それをしたところで結局は国家予算として市場に放出されることになるのだから同じことだろう。

市場というシンクから国のタンクに吸い上げられた水が、再び実体経済に戻ってきているだけなんだからね。

市場であるシンクの中には国民の現金や預貯金が1600兆円ほど流れていて、そこから出たパイプの中を流れるのがGDPおよそ550兆円ほど。もう一方のパイプ内を金融経済の750兆円ほどが毎年流れている。

私たちが生活している世の中のお金の流れを簡略化するとそんなところだろうか。

 

「自分は今の生活に満足しているからこれ以上の経済成長なんて望んでいない」と言っている人を見るんだけど、どうしてマクロ経済の問題から個人の生活レベルの話にすり替えられるのかという疑問はこの際無視するとして、日本という国においては経済成長しなくても良いという話は有り得ないんだ。近隣諸国との関係を考えれば分かるだろう。GDPと財政規模はほぼ相関しているんだよ。つまりGDPが増えなければ財政的余裕もなくなってしまうから、軍事費の確保も難しくなってしまう。隣国の経済成長に合わせて日本も成長していかなければならないんだ。

「だったらどこかの予算を削れ!」という定番の文句が思い付いた人はさっきのシンクの話に戻ってみて欲しい。実体経済を流れる資金が変わらず、デフレのままで設備投資もされず、技術革新も経済成長もなく、ただ少ない牌をどこかから奪って分け与えるだけで解決できるような問題ではない。そもそもの話、資源(と労働力がその国の通貨の価値を裏付けている)の乏しい日本において、設備投資や技術革新を抑制するなんて愚かな話だ。

 

今回は一般歳出と国債費の疑問についてまとめてみたよ。良く分からない人は他の記事も参考にしてもらえると有り難い。

 

それでは、また次の記事で会おう。

MMT(現代貨幣理論)を知る

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ヒカリの学習ノートにへようこそ。

今日は、前回までの記事でも話題に挙げていたMMT(現代貨幣理論)について説明して行こうと思う。

デフレ下の現在、経済を語る場面ではこの用語が頻発するし、数々の議論が展開されていることは、ネットやテレビのニュースを見て気付いていると思うんだけど、そもそも「MMTって何なんだ?」って人が多いと思うんだ。たぶん、テレビや新聞、雑誌なんかでは主流派経済学者や評論家によるMMT批判の方が目立っているから、なんとなく怪しい理論のように思われているかも知れない。筆者が目にする情報も、殆どが否定的な見解だった。特に銀行家や投資家にはMMTアレルギーの人が多い印象だ。

とはいえ、これから説明するMMTは、暴論でも何でもなくて、純然たる事実を言っているに過ぎないんだ。

銀行が信用創造(与信行動)でお金を創出していること、要は借入が預金を増やしていることについては、参議院決算委員会(平成31年4月4日)で西田昌司参議院議員から質問を受けた黒田日銀総裁も認めている。

貸出しが預金を生み、尚且つ元手となる資金の制約を受けないという市中銀行の仕組みは、日銀の政府に対する貸出しにも通じるものがあるだろう。

 

この問題を巡る議論では種々雑多な見解が溢れており、中には本題であるMMTの理屈以上に暴論とも思える反論が飛び交う場面もあるのだけど、ここではそれに対する反論を取り上げるわけではなくて、MMTとはどういうものなのかを淡々と説明することに終始するつもりだ。本質が分からないと賛否を決めることも難しいからね。そして、今、日本が置かれている経済状況と照らし合わせた上で、各々が判断すれば良いと思う。

 

このテーマは昨年の5月、ちょうど東京で緊急事態宣言が解除されたあとに取り上げる予定だったんだけど、他の記事の掲載が先行してしまったため遅くなってしまった。どうしてその時期に発表したかったのかというと、経済評論家の三橋貴明先生の番組に、あの人気ユーチューバーで実業家のラファエルさんがゲスト出演して話題になったタイミングだったからだ。ラファエルさんが経済に精通していることや、三橋先生を尊敬していることは筆者も知っていたんだけど、まさかお二人の対談が実現する日が来るなんて思わなかったんだ。時期は逃してしまったんだけど、今後興味を持つ人が出て来る可能性に期待して、この機会にMMTの解説をまとめることにした。

 

なるべく簡潔で分かり易い説明を心掛けるつもりだ。バランスシートを使って解説する方法もあるんだけど、今回は視覚的にイメージし易いように示して行くことにする。

先ずは大まかな全体構造さえ掴んでしまえば速いので、図を見ながら流れを掴んでもらいたいと思う。


政府の新規発行国債を日銀が直接引き受ける場合(日銀直接引受)

 

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日銀が直接国債を引き受けた場合

図を見ながらで良いので、順に確認していこうか。

 

先に日銀が政府から国債を引き受ける(買い入れる)場合を考えてみよう。政府が国債を発行した後の流れは、大まかに以下の通りだ。

 

  1. 政府が新規に国債を発行して日銀に購入してもらう。日銀は、国債の購入代金の支払いとして政府の日銀当座預金を増加させる。これが、日銀の政府に対する信用創造(与信行動)だ。
  2. 当座預金を増やした政府は、その資金を使って公共事業を発注する。そこで、発注先の企業、例えば建設会社に政府小切手(*現在この方法は用いられていない)を振り出して、工事の依頼をする。
  3. 政府小切手を受け取った建設会社は、そのままでは社員の給料を払えないので、現金化する必要がある。さっそく、取引先の銀行に小切手を持ち込んで、代金を取り立てる。
  4. 政府小切手を受け取った銀行が、建設会社の口座に小切手相当額を入金(記帳)する。この瞬間に新たな預金が創造(民間の貯蓄が増加)されたことになる。銀行も小切手だけ持っていても仕方がないから、日銀に対して小切手相当額の取り立てを依頼する。
  5. の国債発行で増やした政府の日銀当座預金から、政府小切手を受け取った市中銀行の日銀当座預金に小切手相当額が移動する。そうすると、市中銀行の日銀当座預金が増えるので「超過準備」が発生する。銀行は、超過準備分を解消するために国債を購入する。これによって国債金利は低下する。

 

さて、どうだろうか。これが日銀直接引き受けだ。

注目したいのは、政府の国債発行によって民間貯蓄が減るのではなく逆に増えていること、国債金利が高騰するのではなく下がっていることだ。政府が国債を発行すると民間貯蓄(みんなの銀行預金)が減少するという理屈が当てはまらないのだから、民間貯蓄の不足で金利が高騰するという批判も当てはまらない。

 

さて、このぐるぐる回す動きは延々と行うことができるし、もちろん財政破綻もしない。

といっても、デフレ下での話だ、インフレ率を達成して好況となったならば、今度は国債発行を抑えるなり、増税するなり、社会保障費を縮小するなりすれば良いだろう。そのときこそ緊縮を行えば良いという話だ。

 

ただし、今説明した方法は財政法5条によって原則禁止とされている。

 

財政法 第1財政総則 第5条「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」

 

要するに財政節度の維持やハイパーインフレ、日本通貨の信用失墜の回避が目的なんだね。

例外として国会の議決があれば直接引き受けを行うこともできる。

では、その都度国会の議決を経て国債を発行しているのかというとそうではないんだ。あくまでも財政法が禁止しているのは日銀による直接引き受けであって、市中銀行が国債を引き受けることまでは禁止していない。

 

次に説明するのがその「市中消化の原則」なんだけど、現行法の下で実行されているのがこの方法なんだ。先程の内容と大きくは違わないので、一つ一つ確認してみて欲しい。

 

これについても図を示しながら説明していこうか。

 

政府の新規発行国債を市中銀行が引き受ける場合(市中消化の原則)

 

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市中銀行が国債を引き受けた場合
  1. 先ず銀行(市中銀行のことだよ)が政府から国債を購入する。購入代金は銀行の日銀当座預金から政府の日銀当座預金に振り替えられる(当座預金残高が増減するだけ)。
  2. 当座預金を増やした政府は、その資金を使って公共事業を発注する。そこで、発注先の企業、例えば建設会社に政府小切手を振り出して、工事の依頼をする。
  3. 政府小切手を受け取った建設会社は、そのままでは社員の給料を払えないので、現金化する必要があるね。さっそく、取引先の銀行に小切手を持ち込んで、代金を取り立てる。
  4. 政府小切手を受け取った銀行が、建設会社の口座に小切手相当額を入金(記帳)する。この瞬間に新たな預金が創造(民間の貯蓄が増加)されたことになる。銀行も小切手だけ持っていても仕方がないから、日銀に対して小切手相当額の取り立てを依頼する。
  5. の国債発行で増やした(市中銀行から受け取った)政府の日銀当座預金から、政府小切手を受け取った市中銀行の日銀当座預金に、小切手相当額だけ移動する。しかし、今度は超過準備には陥らないよ。何故なら1.の国債購入時に政府当座預金に移動した資金が再び銀行の当座預金に戻ってくるだけだから、国債の売買による日銀当座預金額の増減はない(元通りになるだけ)だからだ。

1.で国債を引き受けるのが日銀から市中銀行に変わっているだけで、流れとしては直接引き受けと変わらないよね。違いがあるとすれば5.で銀行の日銀当座預金が増加しないことだ。当然だよね、国債購入時に市中銀行から政府に支払われたお金(当座預金)がそのまま戻ってきているだけなんだから。

 

ここから更に、日銀が市中銀行から国債を買い受ければ新たに日銀当座預金が付与(増加)されることになるだろう。

 

以上の通り、市中消化の原則でもこのプロセスを繰り返し行うことができるし、日銀直接引き受けのような問題(当座預金残高の増加)も発生しない。もちろん、国債金利も上昇しないんだ。この方法を用いる際に注意するべき点としては、インフレ率だけだろう。

 

念のため付け加えておくけど、市中銀行が国債を買い入れたとしても、それは銀行の日銀当座預金(中央銀行から供給された)から支払われるのであって、民間貯蓄(私たちの預金) を使って購入されるわけではないから、私たちの預金が減少することはないんだ。同時に、金利が上昇するという心配がないことも、市中消化による一連の流れから読み取ることができるだろう。

政府が国債を発行して財政出動しても財政破綻が起こり得ないと言われる理由はこれなんだ。

※通貨の価値を支える資源と供給力が棄損していない場合に限る(戦中戦後は例外)

 

最初の日銀直接引き受けの話に戻るんだけど、超過準備の解消のために銀行が国債を購入することによって国債金利は低下するよね。でもその場合には、日銀が政府から引き受けていた国債を銀行に売却して溢れた日銀当座預金を吸い上げてあげるという手段がある。見方を変えれば銀行が政府から国債を購入して余分な日銀当座預金を消化しているのと同じだよね。結果として、直接引受も市中消化の原則と同じことをやっていることになるんだ。つまり、国債金利は不変であると言える。

 

尚、国債の利払いにどう対処していくのかについては「政府の負債をチャラにできる?国債のキャンセルは可能か」で前後編に分けて触れているので、気になる人はそちらの記事も読んでみて欲しい。

 

まとめると、日銀直接引き受け、市中消化の原則、いずれの場合も財政出動によって新たな民間貯蓄が創造されていることが分かる。国債の金利も、先に説明した通り、直接引き受けであれば日銀が市中銀行の超過準備分を国債売却によって吸い上げてあげれば国債金利が上昇することはない。本質的には市中消化の原則と変わりがないと考えられるね。

尚、度重なる量的緩和(日銀が民間保有の国債を購入することによって銀行の日銀当座預金を増加させる政策)によって、国債金利は下がり続けている。日銀当座預金をいくら増やしたところで民間貯蓄が増えることはないから、先に説明した通り、民間の預金を増やすためには財政出動するしかないんだ。

量的緩和を止めたところで金利が高騰することがないことは、“貸出しが預金を生む”市中消化の原則の仕組みからも明らかだろう(財政赤字が金利を高騰させる心配はない)。仮に日銀直接引受を実行したとしても、先程提案したように日銀が政府から引き受けた国債を市中銀行に売却(超過準備を吸い上げる)することによって市中消化の原則と同じ効果を実現することができるんだ。つまり(超過準備を使って国債を購入することにより)国債金利が低下するという懸念はない、国債の金利は不変ということになる。

 

後半から、国債キャンセルの記事以来のややこしい話になってしまったかも知れない。最初はなかなか理解できないだろうけど、繰り返し学んで整理していけば次第に理解できるようになる筈だ。

 

最後まで読んでくれてありがとう。少しでも財政出動と国債発行の仕組みに興味を持ってもらえることを願っている。

 

それでは、また次回の記事で。

財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-後編

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ヒカリの学習ノートにようこそ。

お待たせしたね、今日は「財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-」の後編に入るよ。後の記事で学ぶMMTの予習も兼ねて、国債発行と財政出動の仕組みについても触れて行くことにしよう。

少し前までは「1000兆円の借金がある」とか「将来世代にツケを残してはいけない」とか言われていたけど、最近では本気にしている人は少なくなってきたんじゃないかな。まぁ、実際のところは、我々国民の「借金」から国や政府の「借金」という認識に置きかえられているに過ぎなくて、財政赤字は危険なものなんだという認識に変わりはないようだけどね。そういう人たちが、前回話した「クラウディングアウト」や「マンデルフレミングモデル」という一見筋が通っているように見える理屈を取り出して理論武装するエコノミストの主張に流されているわけなんだけど、その手の人たちに共通していることは“お金はモノ”であると考えているところだと言えるだろう。

実態経済として信用創造が導入されているのに、何故このような錯覚が生じてしまっているのかは分からない。有限なのは「お金」そのものではなくて、その価値を支えている「資源や労働力」の方だ。それさえも将来、AIとナノテクノロジーの発展によって解消される可能性はあるんだけどね。

話を進めよう。これから国債発行の仕組みについて説明していくわけだけど、MMTを肯定するか否かは見解の分かれるところだと思う。これは“MMTはトンデモ理論だ”というような主流派の主張についてだけ言っているわけではないよ。彼らには否定しなければならない理由がある。特に経済学者や評論家、自分の資産を守りたい投資家は立場上仕方がないだろう。そういう人たちのことは置いておくとして、ここで言う見解の相違というのは、MMTを認めつつも万能とまでは考えていない、慎重派の人たちもいるということだ。そうした議論に踏み込んで行くためにも、広い視野で情報を見聞きして、判断できるだけの知識を身に付けておく必要がある。 

この場で全ての論点に触れることはできないけど、出来る限り情報を整理していくことにするね。

ここから先の話が良く分からないという場合には、飛ばしてしまって次回の記事を読んでも構わない。今の段階で話を聞いても意味が分かり難いかも知れないからね。

 

◆MMTは正しいのか?国の借金を返済するとどうなる?

政府が需要を生み出す財政出動は、今のようなデフレ期には有効な施策と言えるだろう。特に外需型の日本においては通貨安競争を闘い抜くためにも無視できない政策の一つだ。

「借金」という名を借りてはいるけど、実態を説明するならば政府による銀行への「債権譲渡」と表現した方が誤解を招かなくて済むだろう。それでも尚、国民の税金から返済するべき「借金」なのだと言うのなら、それが何を意味しているのかをよく考えてみて欲しい。政府の黒字は国民の赤字だ。1000兆円の返済が完了する頃にはマネーストックが激減して、私たちが経済を回せなくなってしまうよ。

参考までに、2019年時点の市中にある現金・預金は凡そ1580兆円だ。そこから返済して、63%も減少した資金で経済活動を行うのだろうか?返済したそのお金はどこへ行ったのだろうね。結局は政府が財政出動して市場に戻すしかないだろう。

実際には一括で返済させることはないだろうから、無理のある話なんだけど、分かり易くするために極端な例を上げてみたよ。

ここで誤解のないように付け足しておくけど「返さなくても良い借金」というのは語弊がある。正確には「借り換えができる借金」だ。事実、政府は毎年国債を償還する際に60年償還ルールに基づいて返済(借り換え)を行っている。

因みに、日銀は米国のFRBとは違って政府の子会社だ。日銀が債務超過に陥ることで通貨の信用がなくなると懸念する声をたまに聞くんだけど、通貨発行者であり管理者でもある日本政府を親に持つ日銀がどうしたら破綻するのだろうか。

政府通貨(デジタル通貨など)を発行して国債を償還してしまおうという提案をしている専門家もいるんだけど、そこまでして国債残高を調整する必要性はないだろう。理由は、政府と日銀が統合政府だからだ。貸主と借主が同一経済主体ということは、そもそも借金は無いに等しい。従来通り借り換えで償還もできる。そこまでして現行のシステムを覆して新たな試みに乗り出す意味があるのか疑問だ。

もちろん、将来的に納税や公共料金の支払いにデジタル通貨を普及させて国民生活の利便性を図る目的でブロックチェーン技術の研究、開発を進めたいというのであればそれもありだと思う。デジタル円の研究は進められているのだから、実現可能性は十分あるだろう。その代わり、発行元が日銀では意味がないだろう。だって、日銀が発行した通貨で日銀の債権である国債を消すことはできないからね。そうなると、やはり政府が発行することになるんだけど、先に説明した通り利便性の追求だけのために政府通貨を発行して現行の通貨と併用する生活になるよ。

ここでは「そこまでしたいのか?」という話は置いておこう。我々国民が後から決めれば良いことだ。

 

◆膨れ上がったマネタリーベースはどうなる?利払いは国民の負担になるのか?

政府の債務問題の解決策の一つとして、日銀保有国債の一部を無利子永久債化するという提案があることは、筆者も記事として取り上げているので、興味のある人は読んでみて欲しい。この解決策については様々な疑問、不安、反論があって、論争の絶えない話になってしまう。ここでは一つの指摘を取り上げてみるね。

ある反論によると“450兆円の無利子永久債を日銀に握らせてしまい、政府の借金をチャラにしようとしたとする。この場合は同額の準備金(日銀当座預金)が増える。そうすると、巨額のマネタリーベースのせいでインフレが加速するから、景気の過熱を抑えるためにも利上げを行わなければならないが、その手段である売りオペが永久債ではできない。こうなってしまうと超過準備への付利を上げることで対応するしかないが、2%のインフレ目標が達成したと仮定すると、それ以上の付利を行う必要がある。仮に3%の付利を450兆円の超過準備に行うとすると、13.5兆円の利払いを追うことになってしまう。仮に政府が利払いのために日銀に資金を注入するとしたら、税金で支払わなければならないわけで、そのときの国民負担はどれほどのものになるのか…”というものなのだけど、順を追って説明していこうか。

先ず、この話はマネタリーベースの増加がインフレを引き起こすことを前提に話されているんだけど、日銀当座預金の増加が実体経済に影響を与えることはないという認識が諸外国でも広がっている。そもそも、日銀当座預金には民間企業や個人は関わることができないのだから当然だろう。この時点で景気の過熱の心配はいらない筈だ。先に説明した通り、敢えて手段を講じる必要はないんだけど、どうしても何かやりたい、提案してくれと言うのであれば、有利子(変動金利)永久債に置き換えることで日銀の資産性を確保しつつ、金利収入の一部を国庫納付金として政府に納めるようにするという方法だってある。一気に450兆円もの国債を永久債化したくないのであれば、例えば保有日銀券(日銀にとっては無利子の永久債務だ)の総額である110兆円を上限として、10兆円ずつ国債の償還時に発行していけば良いだろう。日本は毎年60分の1ずつ一般会計から債務償還費として国債整理基金に繰り入れているんだけど、ここで発行されている新規の国債が(建設国債を除けば)ちょうど10兆円になるから釣り合う計算になる。つまり、この方法で順次償還して行けば、一般会計からの歳出を減少させることができる。増税の負担を軽減したいのであれば、消費増税した年度に永久債化を実行するようにすれば、浮いた10兆円分を社会保障費に回すなどして、国民の負担を和らげることもできる。

先の無利子永久債化への不満は、一気に450兆円もの国債を永久債に置き換えて、マネタリーベースだけ膨らませてどうするんだ!というものだったけど、別に一気に永久債化する必要はないし、無利子にする必要もない。仮にそうしたからといって、市場が混乱するほどの過度なインフレが生じるということは考え難い。金融緩和でインフレになるのならとっくの昔になっているだろう。それに、一部で借金を「返す」「返さない」で盛り上がってるみたいだけど、ちゃんと返しているよ。何度も言うけど借り換えを行っているんだ。満期が到来した国債を新規国債で償還する、これは当たり前のように行われてきたことだし、今後「やっぱり返すの止めるわ」なんて言い出すことはあり得ない。何故って、そうする理由がないからだ。それこそ通貨への信任を失ってしまうのだから返さないわけがない。「返さなくても良い」借金ではなくて「借り換えができる借金」だと記憶に刻んでおいて欲しい。

最後に補足するけど、金融緩和の出口に備えて日銀は「債券取引損失引当金」を積み立てているよ。さっき資金の工面に懸念する声を取り上げたけど、インフレ目標を達成した際に日銀当座預金に対して付利するための資金は一応蓄えている。2019年3月期の段階で8154億円積み立てている。

これに税金を加えたとしても利払いができないんじゃないかという指摘も見受けられる。確かに、13.5兆円もの利払いを負う可能性を考えるともっともらしく聞こえるんだけど、そもそも無理に付利する必要があるのだろうか?本来、当座預金には利息なんか付けないものだ。これは臨時金利調整法という法律によって決まっている。そこを特別に付利しているのが日銀当座預金なんだよ。インフレ対策としての付利は米国のFRBが行っているからそれを参考にしているんだろうけど、そもそも付利を行う必要なんてないよ。何故って、銀行が無限に信用創造できるわけではないからだ。理由は、BIS規制によって自己資本比率の8%までと歯止めがかけられているからだ。だから銀行が有り余る当座預金を運用しようとして信用創造を乱発するなんてことはあり得ない。どうしても景気の過熱を抑えたいのであれば、預金準備率の引き上げという方法もあるだろう。意地でも当座預金に付利する必要はないんだよ。

 

◆払った国債金利は結局政府に戻ってくる?

国債の46%を日銀が保有しているという事実も忘れてはいけない。日銀は政府の子会社だ。政府から受け取った金利は、日銀の収入という扱いになるから、そこから諸経費を差し引く。そして、残りはどうなると思う? 政府に上納するんだよ。これを「国庫納付金」と言う。残りの54%は銀行や民間企業の持ち分となるが、支払った金利が多ければ多いほど、結局は税金という形で政府に戻ってくることになる。先に説明したインフレ抑制装置の正体が「税金」だからだ。

「お金は信用創造の産物」であることや「財源は税金じゃない」という事実を理解するためには、お金がモノであるという認識を改めなければいけない。そして感情ではなく現実に目の前で展開されている経済を理解するように努める必要がある。

このノートでは政治的議論をしたいわけではない。あくまでも客観的事実として経済の説明をしていくことになる。

今回は過去に紹介した知識も交えて様々な視点からやや脱線気味に語ってしまったので、話が長くなってしまった。余計に混乱させてしまったかも知れない。 

次回はもっと分かり易くMMTの基礎知識を説明するから、気が向いたら是非読んでみて欲しい。

それでは、また次の記事で。

 

財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-前編

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いつもヒカリの学習ノートを読んでくれてありがとう。

今日は「財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-」と題して、前後編に渡って政府の財政出動の仕組みについて話して行こうと思う。

分かりやすいようにタイムリーな話題から引っ張ってくるのなら、2020年から日本でも猛威を振るっている新型コロナウイルス感染拡大に対応するための「緊急経済対策」を例に上げることが出来るだろう。

一律10万円の支給を実現するために、先ずは財源を確保しなければいけなかったんだけど、それは2020年度の補正予算案の組み替えと赤字国債の発行によって賄われたんだ。ニュース記事を調べてみると、なんとなくネガティブな印象が伝わってきたと思う。

「国債発行ってことは政府がまた借金をするのか?これは大変だっ、もっと財布の紐を締めないと。よし、今こそ緊縮財政だ!」

などと考えていた人がいないことを切に願う。デフレに加えてコロナショックで経済が打撃を受けている最中で緊縮なんて正気の沙汰ではないよ。

でもね、一昔前までは(いや、たぶん今も)エコノミストでさえ本気で政府の国債発行に伴う財政赤字が個人や企業を苦しめると考えていたんだ。

これは、お金をモノ(金のような有限の資源)だと考えている人たちにありがちな誤解と言えるだろう。つまり、政府が大量の国債(お金を借りるための借用証書)を発行することで借金をすると、どこかにきっと存在するお金のプール(日銀当座預金のことだろう)から資金が吸い上げられてしまい、スッカスカになってしまう。目減りすることによって金利が上昇(物が減れば価値が上がるだろう?それと一緒だ)、民間企業がお金を借りることが難しくなるから、企業は設備投資も満足にできなくなってしまい、経済発展の妨げになってしまう。もしかしたら景気の悪化が原因で解雇なんてことにもなり兼ねない。だからとにかくこの財政赤字を解消しないと取り返しのつかないことになってしまうぞ。ならば今こそ緊縮だ!

という理屈だ。そのことを「クラウディングアウト」なんて名付けている。

これについて理論立てて説明したものがマンデル・フレミングの法則(1963年発表)だ。財政政策を中心に進めてしまうと、国債発行のために多額の資金を使ってしまうため、マネ―ストック(社会のお金)が減少してしまう。これによって金利が上昇し、結果的に国債の利回り(長期金利)も上昇してしまうから、設備投資が減少してしまう(先に説明したクラウディングアウト効果がここで生じてしまう)と主張されている。そうならないためにも金融緩和中心で政策を進める(お金のプールを増やす)ことが重要なのだ、と。

でもね、国債の利回りって物価上昇率(インフレ率)と密接に関係しているんだよ。だからデフレ下で金利が上昇するなんてことは考えられない。

因みに、長期金利(10年物国債の利回り)は「期待インフレ率+潜在成長率」で決まるとされているよ。

だいたい、日銀はこの長引くデフレを脱却すべく、年間80兆円もの国債を市中銀行から買い上げているのだし、銀行も多額の資金を国債で運用しているんだ。これによって国債価格は上昇して、金利は下がる一方なのが実情だ。デフレなので、新たに発行国債の利回りも低いまま維持されて行く。既に金融緩和を行っているようなものだと言えるだろう。そもそも、金融緩和をする以前から国債金利が減少し続けていたのだし、国債を私たちの預金から購入しているなどという事実もどこにもない。

もちろん、財政出動の結果、見事インフレ率が上昇して金利が上がることは十分考えられるよ。そして政策金利が上がれば円高にもなるだろう。でも、今はまだその段階まできていないんだ。

繰り返しになるけど、お金のプールなんてものは存在しない。いや、正確には日銀当座預金というプールらしきものは存在するんだけど、国債を発行したからといって目減りすることはない(あとから戻ってくる)。

何度も言うけど国債は国民の銀行預金から購入しているわけではないからね、国民が損をすることなんてないんだ(日銀当座預金は日銀が市中銀行に対して割り当てたものだ)。

ここまで聞いていて「金利って何だ?」って思っている人のために付け加えておこう。

「金利」っていうのはお金の付加価値のことだ。よく「お金の便利さを一定期間手放すことへの対価」と説明されている。その対価である利子が下がっているということは、つまり、お金に対する需要が少ない、お金を借りたいと考えている人が少ないってことなんだ。

どうしてお金を借りたくないんだろう? それはデフレだからだよ。デフレ期に借金をして設備投資をしても儲からないよね。それどころか、借入した時よりも更に利率が下がる恐れもある。これではいくら金利が低いと言っても借りたくなくなるよね。逆に貸す側である銀行の立場で考えてみようか。仮に今1%でお金を貸したとする。でもこの先金利が2%に上昇してしまったら、1%分損をしてしまう筈だよね?それなのに敢えて低金利で貸し付けているんだ。つまり、今後もデフレが続くだろうという予想を立てているからなんだ。

こうなってしまうと、益々不景気な状況から抜け出すことが困難になる。政府が率先して需要を生み出していかなければならないと言われている理由はそこにあるんだ。景気を刺激する対策を行わない限りは悪化の一途を辿るだけなんだから当然だよね。

次回は更に踏み込んで、財政出動に対する疑問や反論を例に出しながら、国債発行による借金の本質について語って行くことにする。結構ややこしい話になってくるかも知れない。どうしても混乱してしまうようだったら、その後にMMTについて分かり易く説明した記事を出す予定なので、それを読んだあとに改めてこのテーマの前後編に目を通してみて欲しい。

今日も読んでくれてありがとう。続きはまた、後編の記事で。