ヒカリの学習ノート

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政府の負債をチャラにできる?国債のキャンセルは可能か 前編

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ヒカリの学習ノートを読んでくれてありがとう。

今日は「政府の負債をチャラにできる?国債のキャンセルは可能か」と題して、現在日本政府が抱えている債務(バランスシート上では日銀の資産)である国債を帳消しにする方法と、それを実行した場合に発生する諸問題について解説して行くよ。

先ず始めに、提案されている国債のキャンセル方法は2通りあるんだ。1つ目は、米国の経済学者でありノーベル経済学賞受賞者でもあるジョセフ・E・スティグリッツ教授が、2017年3月14日に来日した際に、経済財政諮問会議の場で提案したものだ。詳しくは次回の記事で話すんだけど、簡単に説明すると、日銀のバランスシートから丸ごと国債を抜き取ってしまうイメージだ。一見乱暴に思えるけど、3段階に分けた工程のうち、2つ目のステップで行うことになる。

もう1つの方法は、英金融サービス機構元長官のアデア・ターナー氏が提案したもので、こちらは日銀保有国債を無利子の永久国債化にしてしまおうというものだ。

いずれも権威ある人が提案したアイディアなので、画期的なようにも思えるけど、これで本当に政府債務がチャラに出来るのかというと、そう簡単な話でもないんだ。上手い話には何かしらの罠が隠されているものだからね。

ここでは国債をチャラにする革新的な方法を提案するのではなく、現在出されている「国債のキャンセル」というアイディアが本当に有効な手段であるのかどうか、いくつかの問題点を上げながら解説して行くつもりだ。

無論、実際の市場で検証実験を行うことは不可能だから、あくまでも想定し得るいくつかの可能性を示唆するに過ぎない。

そもそもマーケットとはそのときの人々の行動に左右される要素が大きいのだから、絶対なんて言い切ることはできないんだ。

例えば、市中銀行はこれまで長期国債の金利低下(金融緩和が一因か?) に悩まされてきたんだけど、今では新型肺炎の影響か長期金利は上昇傾向にある。理由は、市場の動向に不安を覚えた投資家が現金化に走ったためだろう。

この事態を受けて、国債購入(買いオペ)で長期金利の上昇に対応すべきだとの見解が、先の金融政策決定会合(2020年3月16日)で何人かの委員から述べられている。

従来、長期金利は市場が決定するものだという放置主義が取られてきたのだけど、今では長期金利の変動を容認する日銀のスタンスが委員から非難される有り様だ。もっとも、ここで長期国債金利の放置を容認してしまうとイールドカーブコントロール(長短期金利を日銀の金融市場調節によって操作すること 2016年9月20日・21日の金融政策決定会にて決定)を導入した意味がなくなってしまうから仕方がないのだと思う。

このように市場は常に変動する。専門家でさえ予測を外してしまうことはある。それでも、分からないことを予想しながら手探りでリスクを回避していく術を磨くことは大切だ。

今日から2回に分けて、国債のキャンセルによって本当に負債から逃れることが可能なのか、提案されている方法を採用した場合に待ち受ける可能性を示して行きたい。

注意:「国債のキャンセルによって私たちの銀行預金が消滅してしまう!」などと一部では言われているようだけど、そんなことはあり得ないので安心して欲しい。国債は市中銀行が日銀に持っている日銀当座預金から購入されるものであって、みんなが持っている市中銀行の預金口座とは別ものだ。私たちの預金に影響を及ぼすことはないよ。

◆無利子永久債でチャラにする

先ずはアデア・ターナー氏のアイディアから紹介していこうか。

ターナー氏は、政府が抱えている債務を無利子の永久債にして日銀に握らせてしまおうという提案をしているんだけど、どう思うかな?

無利子だから利払いは発生しないし、政府が抱えている負債を永久債という形で発行して、あとは日銀に買い取らせて放置してしまえば全てチャラになるじゃないか。そう考える人はどれくらいいるのだろう。

では、実際にこのアイディアを実行してみようか。

2020年3月時点の日銀バランスシートを見る限りでは、約494兆円の国債が日銀の資産として保有されているね。これは政府のバランスシート上では負債であるから、この分を全て無利子永久債にして日銀に買い取らせてしまうとしよう。

さて、そのあとに何が残るだろうか…買い取らせるのだから、日銀当座預金の負債(政府BSでは資産)に国債と同じ額、つまり、494兆円の準備金が発生してしまうよね。

政府が保有する日銀当座預金は、財政出動で消費されて、やがて市中銀行の日銀当座預金へと移って行くことになる。巨額のマネタリーベースはインフレ圧力の要因になると騒ぐ人たちもいる(これまでの金融緩和の結果を考えるとすぐにハイパーインフレを引き起こすとは考え難いが)。事実はともかくとして、金融緩和は景気を回復させるというセオリーに則り、対処して行く必要があるだろう。

一つの方法としては、売りオペ(日銀が国債を売却すること)によって市中銀行のマネタリーベースを吸い上げてしまうというものなんだけど、忘れてはいけない、先程日銀が引き受けたのは無利子永久債だ。これでは売りオペはできないだろう。

では、どうすれば良いのだろう…残された手段は超過準備額に付利することによって利上げを試みるという方法(量的・質的金融緩和の出口戦略でもある)が考えられる。法定準備率は既に満たしているので、市中銀行に分散された494兆円が付利を引き上げる対象になる(市中銀行の日銀当座預金を一つとして考えた場合)。このとき、2%のインフレ目標が達成されている状態と仮定すると、インフレを止めるためにはそれよりも多く、例えば3~4%を付利する必要が出て来るだろう(だんだん怪しい話になってきたね…)。

ここでは仮に3%付利するものとしよう。そうすると、日銀は超過準備に対して14兆8千億円付利することになる。

その資金はどこから持ってこようか。

参考までに、2018年度の決算によると、日銀の経常利益(営業利益に営業外収益を加え、費用を差し引いたもの)は2兆9億円と、98年度(新日銀法施行)以来過去最高を記録している。要因の一つは、円安により外国為替関係益が増加したためだろう。さて、この事実を基にするならば、巨額のマネタリーベースにより生じたインフレ圧力により円安になるだろうから、日銀の保有する外国為替関係益も増加して、経常利益を3兆円かそれ以上に引き上げる可能性がある。いずれにしても日銀は異次元緩和の出口に備えて「債券取引損失引当金」を積み立ててきているんだけど、量的・質的金融緩和の下で額面(元本)を大幅に上回る価格で購入した国債に関しては、償還日を待つことなく毎年償却することを繰り返している。これを償還まで繰り返すと合計で11兆2803億円の償却額になると言われている(ブルームバーグ試算)。途中で無利子永久債による国債キャンセルに切り替えたとしても、(超過準備に付利する14兆8千億円-日銀経常利益2兆9億円と仮定すると)10兆円を超える利払いを負うことになることに変わりはない。その費用をどこから賄うのかという問題は残るよね。当然政府から流し込んでもらうしかないのだが、ここで資金を集めるために新たな国債を発行するのは本末転倒だ。更なる債務問題を引き起こしてしまう恐れがある。

安全策としては素直に税金で賄うという方法だ。そもそも税金とはインフレ抑制装置だ。これは景気が回復しているときにこそ、その真価を発揮する(今までやってきたデフレ下での増税は逆効果だ)。稼ぐほどに吸い上げられるのは、一箇所に資金が集まることによってお金の巡りが悪くなるのを防ぐためだ。経済をより活性化するために一旦吸い上げて、必要に応じて再分配するポンプを制御する役割が、政府にはあるんだ。

今回は無利息永久債を日銀に買い取らせた場合に何が起きるのかについて想定し得る範囲での問題と解決策を上げてみたんだけど、どうだっただろうか。

主にアデア・ターナー氏の提唱する無利息永久債による国債キャンセルを実行する難しさを中心に述べてきたんだけど、一応、このアイディアを活用する方法も残されてはいるんだ。

無利子という形に拘らないのであれば、変動金利付き国債にしてしまえば、日銀は資産を維持することが可能となる。そうすれば国債への信認を失うリスクも回避できるだろう。永久債は市中に売却せず、日銀が得た変動金利収入も国庫に納付する旨事前に定めておく。あとは、100兆円 (「銀行券発行残高(日銀にとっての無利子・無期限の債務)」と額面を合わせることで負債リスクを減少させる) を上限として、年度毎に永久国債化する金額を10兆円(国債償還時に発行する赤字国債額)と取り決める。日銀当座預金の増加がハイパーインフレを引き起こすと先に述べているが、正直なところ筆者は過去の事例を見る限りでは、必ずしも実体経済に影響をもたらすとは考えていない。事実、国外の関係当局でもそのような認識が定着しつつある。ここではインフレを考慮に入れずに話を進めよう。ここから難しいところなんだけど、消費増税(恐らくされるだろう)の年度に10兆円の永久債を満期が到来した国債の償還に充ててしまおう。国債償還費用が浮いた分、消費増税によって増加した税収は余るので、一般歳出を増やして市場に回すことにより、増税に伴うマイナス効果を補てんするんだ。

あくまでも増税ありきの提案だけど、100兆円を上限とするならば、10兆円ずつ、計10回の増税時に国債の償還にこの永久債を引き当てることが可能だ。同時に、消費増税が国民にもたらすマイナス効果も、国債の償還に充てる財源によってカバーすることができる。

どうだろうか、かなりややこしい話になってしまったね…。でも、後半に説明した方法の方が、ターナー氏の提案を有効活用できるし、付利(金利調整が厄介)を行って利上げを試みるなんていう遠回りな方法よりも現実的であると言えるだろう。

次回も引き続き、国債キャンセルの方法と実行結果を想定した検証をして行きたいと思う。

それでは、また次回。