ヒカリの学習ノート

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「お金」が好きなら先ずは知ることからはじめよう!経済からお金の雑学、テクノロジーの動向まで、このブログを読めば一気に学ぶことができるよ。

財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-後編

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ヒカリの学習ノートにようこそ。

お待たせしたね、今日は「財政赤字とクラウディングアウト-MMTを知る前に-」の後編に入るよ。後の記事で学ぶMMTの予習も兼ねて、国債発行と財政出動の仕組みについても触れて行くことにしよう。

少し前までは「1000兆円の借金がある」とか「将来世代にツケを残してはいけない」とか言われていたけど、最近では本気にしている人は少なくなってきたんじゃないかな。まぁ、実際のところは、我々国民の「借金」から国や政府の「借金」という認識に置きかえられているに過ぎなくて、財政赤字は危険なものなんだという認識に変わりはないようだけどね。そういう人たちが、前回話した「クラウディングアウト」や「マンデルフレミングモデル」という一見筋が通っているように見える理屈を取り出して理論武装するエコノミストの主張に流されているわけなんだけど、その手の人たちに共通していることは“お金はモノ”であると考えているところだと言えるだろう。

実態経済として信用創造が導入されているのに、何故このような錯覚が生じてしまっているのかは分からない。有限なのは「お金」そのものではなくて、その価値を支えている「資源や労働力」の方だ。それさえも将来、AIとナノテクノロジーの発展によって解消される可能性はあるんだけどね。

話を進めよう。これから国債発行の仕組みについて説明していくわけだけど、MMTを肯定するか否かは見解の分かれるところだと思う。これは“MMTはトンデモ理論だ”というような主流派の主張についてだけ言っているわけではないよ。彼らには否定しなければならない理由がある。特に経済学者や評論家、自分の資産を守りたい投資家は立場上仕方がないだろう。そういう人たちのことは置いておくとして、ここで言う見解の相違というのは、MMTを認めつつも万能とまでは考えていない、慎重派の人たちもいるということだ。そうした議論に踏み込んで行くためにも、広い視野で情報を見聞きして、判断できるだけの知識を身に付けておく必要がある。 

この場で全ての論点に触れることはできないけど、出来る限り情報を整理していくことにするね。

ここから先の話が良く分からないという場合には、飛ばしてしまって次回の記事を読んでも構わない。今の段階で話を聞いても意味が分かり難いかも知れないからね。

 

◆MMTは正しいのか?国の借金を返済するとどうなる?

政府が需要を生み出す財政出動は、今のようなデフレ期には有効な施策と言えるだろう。特に外需型の日本においては通貨安競争を闘い抜くためにも無視できない政策の一つだ。

「借金」という名を借りてはいるけど、実態を説明するならば政府による銀行への「債権譲渡」と表現した方が誤解を招かなくて済むだろう。それでも尚、国民の税金から返済するべき「借金」なのだと言うのなら、それが何を意味しているのかをよく考えてみて欲しい。政府の黒字は国民の赤字だ。1000兆円の返済が完了する頃にはマネーストックが激減して、私たちが経済を回せなくなってしまうよ。

参考までに、2019年時点の市中にある現金・預金は凡そ1580兆円だ。そこから返済して、63%も減少した資金で経済活動を行うのだろうか?返済したそのお金はどこへ行ったのだろうね。結局は政府が財政出動して市場に戻すしかないだろう。

実際には一括で返済させることはないだろうから、無理のある話なんだけど、分かり易くするために極端な例を上げてみたよ。

ここで誤解のないように付け足しておくけど「返さなくても良い借金」というのは語弊がある。正確には「借り換えができる借金」だ。事実、政府は毎年国債を償還する際に60年償還ルールに基づいて返済(借り換え)を行っている。

因みに、日銀は米国のFRBとは違って政府の子会社だ。日銀が債務超過に陥ることで通貨の信用がなくなると懸念する声をたまに聞くんだけど、通貨発行者であり管理者でもある日本政府を親に持つ日銀がどうしたら破綻するのだろうか。

政府通貨(デジタル通貨など)を発行して国債を償還してしまおうという提案をしている専門家もいるんだけど、そこまでして国債残高を調整する必要性はないだろう。理由は、政府と日銀が統合政府だからだ。貸主と借主が同一経済主体ということは、そもそも借金は無いに等しい。従来通り借り換えで償還もできる。そこまでして現行のシステムを覆して新たな試みに乗り出す意味があるのか疑問だ。

もちろん、将来的に納税や公共料金の支払いにデジタル通貨を普及させて国民生活の利便性を図る目的でブロックチェーン技術の研究、開発を進めたいというのであればそれもありだと思う。デジタル円の研究は進められているのだから、実現可能性は十分あるだろう。その代わり、発行元が日銀では意味がないだろう。だって、日銀が発行した通貨で日銀の債権である国債を消すことはできないからね。そうなると、やはり政府が発行することになるんだけど、先に説明した通り利便性の追求だけのために政府通貨を発行して現行の通貨と併用する生活になるよ。

ここでは「そこまでしたいのか?」という話は置いておこう。我々国民が後から決めれば良いことだ。

 

◆膨れ上がったマネタリーベースはどうなる?利払いは国民の負担になるのか?

政府の債務問題の解決策の一つとして、日銀保有国債の一部を無利子永久債化するという提案があることは、筆者も記事として取り上げているので、興味のある人は読んでみて欲しい。この解決策については様々な疑問、不安、反論があって、論争の絶えない話になってしまう。ここでは一つの指摘を取り上げてみるね。

ある反論によると“450兆円の無利子永久債を日銀に握らせてしまい、政府の借金をチャラにしようとしたとする。この場合は同額の準備金(日銀当座預金)が増える。そうすると、巨額のマネタリーベースのせいでインフレが加速するから、景気の過熱を抑えるためにも利上げを行わなければならないが、その手段である売りオペが永久債ではできない。こうなってしまうと超過準備への付利を上げることで対応するしかないが、2%のインフレ目標が達成したと仮定すると、それ以上の付利を行う必要がある。仮に3%の付利を450兆円の超過準備に行うとすると、13.5兆円の利払いを追うことになってしまう。仮に政府が利払いのために日銀に資金を注入するとしたら、税金で支払わなければならないわけで、そのときの国民負担はどれほどのものになるのか…”というものなのだけど、順を追って説明していこうか。

先ず、この話はマネタリーベースの増加がインフレを引き起こすことを前提に話されているんだけど、日銀当座預金の増加が実体経済に影響を与えることはないという認識が諸外国でも広がっている。そもそも、日銀当座預金には民間企業や個人は関わることができないのだから当然だろう。この時点で景気の過熱の心配はいらない筈だ。先に説明した通り、敢えて手段を講じる必要はないんだけど、どうしても何かやりたい、提案してくれと言うのであれば、有利子(変動金利)永久債に置き換えることで日銀の資産性を確保しつつ、金利収入の一部を国庫納付金として政府に納めるようにするという方法だってある。一気に450兆円もの国債を永久債化したくないのであれば、例えば保有日銀券(日銀にとっては無利子の永久債務だ)の総額である110兆円を上限として、10兆円ずつ国債の償還時に発行していけば良いだろう。日本は毎年60分の1ずつ一般会計から債務償還費として国債整理基金に繰り入れているんだけど、ここで発行されている新規の国債が(建設国債を除けば)ちょうど10兆円になるから釣り合う計算になる。つまり、この方法で順次償還して行けば、一般会計からの歳出を減少させることができる。増税の負担を軽減したいのであれば、消費増税した年度に永久債化を実行するようにすれば、浮いた10兆円分を社会保障費に回すなどして、国民の負担を和らげることもできる。

先の無利子永久債化への不満は、一気に450兆円もの国債を永久債に置き換えて、マネタリーベースだけ膨らませてどうするんだ!というものだったけど、別に一気に永久債化する必要はないし、無利子にする必要もない。仮にそうしたからといって、市場が混乱するほどの過度なインフレが生じるということは考え難い。金融緩和でインフレになるのならとっくの昔になっているだろう。それに、一部で借金を「返す」「返さない」で盛り上がってるみたいだけど、ちゃんと返しているよ。何度も言うけど借り換えを行っているんだ。満期が到来した国債を新規国債で償還する、これは当たり前のように行われてきたことだし、今後「やっぱり返すの止めるわ」なんて言い出すことはあり得ない。何故って、そうする理由がないからだ。それこそ通貨への信任を失ってしまうのだから返さないわけがない。「返さなくても良い」借金ではなくて「借り換えができる借金」だと記憶に刻んでおいて欲しい。

最後に補足するけど、金融緩和の出口に備えて日銀は「債券取引損失引当金」を積み立てているよ。さっき資金の工面に懸念する声を取り上げたけど、インフレ目標を達成した際に日銀当座預金に対して付利するための資金は一応蓄えている。2019年3月期の段階で8154億円積み立てている。

これに税金を加えたとしても利払いができないんじゃないかという指摘も見受けられる。確かに、13.5兆円もの利払いを負う可能性を考えるともっともらしく聞こえるんだけど、そもそも無理に付利する必要があるのだろうか?本来、当座預金には利息なんか付けないものだ。これは臨時金利調整法という法律によって決まっている。そこを特別に付利しているのが日銀当座預金なんだよ。インフレ対策としての付利は米国のFRBが行っているからそれを参考にしているんだろうけど、そもそも付利を行う必要なんてないよ。何故って、銀行が無限に信用創造できるわけではないからだ。理由は、BIS規制によって自己資本比率の8%までと歯止めがかけられているからだ。だから銀行が有り余る当座預金を運用しようとして信用創造を乱発するなんてことはあり得ない。どうしても景気の過熱を抑えたいのであれば、預金準備率の引き上げという方法もあるだろう。意地でも当座預金に付利する必要はないんだよ。

 

◆払った国債金利は結局政府に戻ってくる?

国債の46%を日銀が保有しているという事実も忘れてはいけない。日銀は政府の子会社だ。政府から受け取った金利は、日銀の収入という扱いになるから、そこから諸経費を差し引く。そして、残りはどうなると思う? 政府に上納するんだよ。これを「国庫納付金」と言う。残りの54%は銀行や民間企業の持ち分となるが、支払った金利が多ければ多いほど、結局は税金という形で政府に戻ってくることになる。先に説明したインフレ抑制装置の正体が「税金」だからだ。

「お金は信用創造の産物」であることや「財源は税金じゃない」という事実を理解するためには、お金がモノであるという認識を改めなければいけない。そして感情ではなく現実に目の前で展開されている経済を理解するように努める必要がある。

このノートでは政治的議論をしたいわけではない。あくまでも客観的事実として経済の説明をしていくことになる。

今回は過去に紹介した知識も交えて様々な視点からやや脱線気味に語ってしまったので、話が長くなってしまった。余計に混乱させてしまったかも知れない。 

次回はもっと分かり易くMMTの基礎知識を説明するから、気が向いたら是非読んでみて欲しい。

それでは、また次の記事で。